中原 中也
その一週間
「御暇でしたら、一寸御相談したい事等御座居ますので、私の動く事についての事ですが、岩山さんともいろいろ考へたのですが、で、考へをおかし下さいませんでせうか、お待ちします、御目文字の上、」
かういふ、女からの葉書が舞ひ込んだのは、水曜日の正午であつた。私は前夜の飲過ごしでぐつたりして、少し卓子の割合には高過ぎる椅子に腰掛けて、煙草を喫つたり本を読みかけてみたり、と、急に思ひ出して此の日頃方々で受取つた名刺の整理をしたり、――要するに何の野心もなく、その日第一回の食事を済ましたばかりのところであつた。新聞も読まず、これといつての読書もせず、秋風のやうな気持になつてゐる此の頃であつてみれば、その、女の葉書といふは一大事件であつた。
まづ最初、その葉書を手にとつた時、私はにつこり笑つたものだ。「チエツ、またこのまづい字か……」といふ程の意味で、それでもその文字がいかにもその女らしいことには、私は何時でも微笑むのである。
だが、読み出して、「一寸御相談したい事等」の所へゆくと、私は額に重い力を感じるのであつた。別に面倒なことを避けようといふのではない、避けたいことはいつ何時だつて避けたいのだが、而も事に面前すれば、どうせ理想家の私のこと、どうせへとへとになるまでは打つ衝かることは知れたことだが、まあなんとしても、その時は額に重い力を感じた。勿論、月曜日には飲み過ごしの後、銀座の酒場で、乱暴を致し、その翌日は心佗しく、独りでゐるに絶えられず、而もその銀座の酒場に一緒に行つた、津濃といふ友人の所へどうも行つてゐたく、勝手なこととは承知しながら、出掛けて行つて、ぐづぐづしてゐた。その朝は、今日