佐々木 邦

いたずら小僧日記

乃公は昨日で満十一になった。誕生日のお祝に何を上げようかとお母さんが言うから、乃公は日記帳が欲しいと答えた。するとお母さんは早速上等のを一冊買って呉れた。姉さん達は三人共日記をつけているから、乃公だってつけなくちゃ幅が利かない。

物は最初が大切だそうだ。初めて逢った時可厭だと思った人は何時までも可厭だとは、お花姉さんの始終言う事だ。それで乃公も此最初を巧くやる積りで、色々と考えて見たが、どうも面白い事が書けない。すべて物には始めがある。正月は明けましてで始まり、演説は満堂の紳士淑女諸君で始まり、手紙は拝啓陳者で始まる。しかし日記は何で始まるものか、始からして分らないのだから、全然見当がつかない。弱っちまう。

お花姉さんのには什※(「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2-94-57)事が書いてあるか知ら、一つお手本を拝見してやろうと好い所に気がついて、乃公は窃と姉さんの室へ上って行った。平常机の引出に入れとくのは承知しているが、鍵がかってあるので、合う奴を探すのに大骨を折った。

実際鍵をかけて置く筈だ。乃公の悪口が大分書いてある。第一太郎太郎と呼捨てに書いとくのが気に食わない。「太郎のオシャベリが皆喋って了った」等は頗る厳しい。どっちがお喋りだ。兎に角処分は追って後の事として、帰って来ない中にと、乃公は一生懸命で丁寧に一頁写し取った。

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