佐々木 邦

冠婚葬祭博士

東半球と西半球

入社してから一週間目ぐらいだったろう。少くとも同僚の顔が皆一様に見えて、誰が誰だか分らない頃だった。僕は退出後駅へ向う途中、大通から横道へ折れ込んだ。或は近道かと探検の積りだった。しかし然ういうところは大抵遠い。矢っ張り急がば廻れだと思った時、ふと気がついた。直ぐ前を同僚の一人が若い女性と手を引くようにして歩いて行く。謂うところのアベックだ。

「早業だな。油断も隙もならない。今の今まで同じ部屋で仕事をしていたのに」

と僕は感心した。兵は神速を貴ぶ。しかし御両人、悉皆安心して、話し/\歩くから、此方は困る。ツカ/\と追い越すのは当てつけるようで粋が利かない。これは引き返す方が宜いと考えて、その身構えをしたが、折から曲り角へ差しかゝって、同僚が振り向いたから、顔と顔が合ってしまった。早これまでなりと度胸を据えて、僕は会釈をしながら通り過ぎようとした。

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