野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。

「親分、近頃は暇ですかえ」

「なんて挨拶だ。いきなり人の前へ坐つて、懷手をしたまゝ長い頤を撫でながら――暇ですかえ――といふ言ひ草は?」

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