野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分は、戀の病ひといふのをやつたことがありますか」

ガラツ八の八五郎は、たいして極りを惡がりもせずに、人樣にこんなことを訊く人間だつたのです。

素晴らしい秋日和、夏の行事は一とわたり濟んで、行樂好きの江戸つ子達は、後の月と、秋祭と、そして早手廻しに紅葉見物のことを考へてゐる時分のことでした。

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