平林 初之輔
五階の窓
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その晩の九時半ごろのことである。
ちょうどその日、宿直の番に当たった会計の野田幸吉は、宵の口の騒ぎもほぼ静まり、ほうぼうからうるさく問い合わせてくる電話の応接もたいてい済んだので、肘掛け椅子をガス・ストーブの傍へ曳きずっていって、疲れた身体をぐったりとその上に乗せた。
彼の様子は妙にそわそわしていた。椅子を立ったり坐ったり、ときどき社長室へ通ずるドアのところへ行って、腰をかがめて鍵穴から中を覗いたりした。ドアには警察の封印がしてあって、警官の立ち会いの上でなければ中へは入れないのである。