中原 中也

夜汽車の食堂

雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。

そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。

その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカと明つて燈つてゐました。其処に僕はゐて、お魚フライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。僕が背ろを振り向くと、会計台の所には、白い上衣のボーイが一人立つてゐて、列車の動揺に馴れ切つた脚つきで、でもシヤチコバつて立つてゐるのでありました。僕のほかにはお客は誰も居なく、どうしたことか、女給も一人も見えないのでした。

僕が美味しい美味しいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きい※(濁点付き片仮名ヱ、1-7-84)ーレをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた、大きなアメリカの小母さんが這入つて来ました。そして僕の耳を引つ張つて、僕の頭を揺すぶりながら、「そんなにレモンをかけて食べる人ありますか!」と云ふのでした。

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