吉川 英治

日本名婦伝

一

思い出もいまは古い、小紋の小切れやら、更紗の襤褸や、赤い縮緬の片袖など、貼板の面には、彼女の丹精が、細々と綴られて、それは貼るそばから、春の陽に乾きかけていた。

「この小紋も、はや二十年ほどになろう。良人の十内様が、江戸詰のおもどりに、長の留守居の褒美ぞと、お土産に買うて下されたもの。性の抜けるほど、よう着た上、解いて頭巾になおしたり、お母様の胴着にもしたり……」

彼女は何かを楽しむように、貼り交ぜた小切れの数々をながめていた。十九の頃、いまの良人の十内に嫁いだときの物すらある。小野寺家の新妻として、まだ客にも羞恥うていた時分の自分のすがたなど、思い出されて来る。

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