野村 胡堂
大江戸黄金狂
第一の手紙
山浦丈太郎は、不思議な手紙を受取りました。その意味は――。
其方は人を殺した。それはお家の奸臣を除くためであったとしても、人間一人の命を絶ったことには何んの変りもない、其方も武士なら、来る八月の十五日箱根の間道を登って、太閤道の辻堂の前に、日没と一緒に立つがよい。その方を親の敵と狙う、万田龍之助は父祖由緒の地に其方を迎えて、敵名乗をあげるだろう。最早主家帰参の望も絶えた其方だ、潔よく龍之助に討たれて、孝子の志を遂げさせるがよい。若し逃げ隠れするに於ては、この旨日本六十余州の津々浦々に伝え、百代の後までも、其方を卑怯者の見本として、物笑いの種にするであろう。
かなり手厳しい文句ですが、真四角な字を書いているくせに、何処かに優し味があって、女文字らしい匂いがあります。