野村 胡堂

新奇談クラブ

巨万の懸賞付で奇談の競技

「久し振りで此の会を開きました。さぞ皆様は奇談、怪談、珍談を山の如く用意して下すったことと思います」

奇談クラブの集会室、幽幻な感じのする真珠色の微光が、承塵の裏から室全体を海の底のように照して居る中に立って、幹事の今八郎は斯う口を開きました。

「世の中が斯う平凡に組織立って来ると、私共の生活は極めて安全ではあるが、その代り面白味も可笑味も無くなってしまいます。何方を向いても常識と規則ずくめの中から、魅惑と刺戟とを求めようとするのは、丁度沙漠の中で清水を求めるようなもので、なかなか容易の事ではありません。――そこでこの会の会長吉井明子嬢が、無事と平凡とに苦しめられて居る皆様を救う為に、巨万の富を賭けて、皆様の中から血の滴るような奇怪を求めることになったのであります」

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