野村 胡堂

百唇の譜

千代之助の悲しい望

二人は葉蔭の濡れ縁に腰をおろして、夕陽の傾くのを忘れて話し込んで居りました。

小田切三也の娘真弓と、その従兄の荒井千代之助は、突き詰めた恋心に、身分も場所柄も、人の見る目も考えては居なかったのです。

千代之助は二十一、荒井家の冷飯食いで、男前ばかりは抜群ですが、腕も学問も大なまくら、親に隠れて、小唄浄瑠璃の稽古所に通ったり、小芝居の下座で、頼まれれば篠笛を吹いたりするような心掛ですから、どんなに間違ったところで伯父の小田切三也が、娘の婿にする筈もありません。

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