野村 胡堂
芳年写生帖
絵師の誇り
霖雨と硝煙のうちに、上野の森は暮急ぐ風情でした。その日ばかりは時の鐘も鳴らず、昼頃から燃え始めた寛永寺の七堂伽藍、大方は猛火に舐め尽された頃までも、落武者を狩る官兵の鬨の声が、遠くから、近くから、全山に木精を返しました。
「今の奴、何処へ逃げた」
「味方を四五人騙し討ちに斬って居るぞ。逃してはならぬ奴だ」
野村 胡堂
絵師の誇り
霖雨と硝煙のうちに、上野の森は暮急ぐ風情でした。その日ばかりは時の鐘も鳴らず、昼頃から燃え始めた寛永寺の七堂伽藍、大方は猛火に舐め尽された頃までも、落武者を狩る官兵の鬨の声が、遠くから、近くから、全山に木精を返しました。
「今の奴、何処へ逃げた」
「味方を四五人騙し討ちに斬って居るぞ。逃してはならぬ奴だ」