野村 胡堂

奇談クラブ〔戦後版〕

プロローグ

「徳川時代の大名生活のただれ切った馬鹿馬鹿しさは話しても話しても話し切れませんが、私にもその一つ、取って置きの面白い話があるのです」

話し手の宇佐美金太郎は、こんな調子で始めました。飴の中から飛出したような愉快な江戸っ子で、大柄の縞の背広は着ておりますが、その上から白木綿の三尺を締めて、背広に弥蔵でもこさえたい人柄です。

「私の話は、大名が乞食になった話で、こいつは、唯でお聴かせするのが勿体ないような筋です。――大名というのは、肥前島原四万石の城主、高力左近太夫高長の惣領で、同苗伊予守忠弘、水の垂れるような好い男、もっとも曾祖父は有名な高力与三右衛門清長といって、これが徳川家康の股肱、家康の若い頃、三河国の三奉行として『仏高力、鬼作左、どちへんなしの天野三郎兵衛』といわれた名臣です」

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