野村 胡堂

奇談クラブ〔戦後版〕

プロローグ

「皆さんのお話には、譬喩と諷刺が紛々として匂う癖に、どなたも口を揃えて、――私の話には譬喩も諷刺も無いと仰しゃる――それは一応賢いお言葉のようではありますが、甚だ卑怯なように思われてなりません。そこへ行くと、私のこれから申上げようと思う話は、譬喩と諷刺と当て込みと教訓で練り固めたようなもので、まことに早や恐縮千万ですが、よく噛みしめて、言外の意を味わって頂きたいと存じます」

話し手の戸田樹一は、こういった調子で始めました。若かりし頃はヴェルレエヌ風の詩を作って、一部の間からやんやと言われましたが、「喝采を止してくれ、私の思想は皆翻訳物に過ぎないのだから」などと憎々しい毒を言って詩壇から遠ざかり、その後実業界に泳ぎ出して、亡父の遺産と名声を資本に、かなりのところまで成功をしましたが、あの忌わしい大戦争が始まると、何を感じたか、実業界とも縁を絶ち、近頃では何とか映画会社の重役に納まり、プロデューサーとして再出発するのだと、少くとも本人は意気込んでいるという――それがこの話し手戸田樹一の正体であります。

小柄で少し粗野で、そのくせ存外に神経質な身扮をした四十を越した男、弁舌はなかなか達者で、口辺に不断の微笑を湛えながら、会心の皮肉や洒落が出ると、小さい眼をパチパチさせながら、少し仰向いて四方を睥睨する男――このカリカチュアで、戸田樹一の風※(「蚌のつくり」、第3水準1-14-6)を想像して下さい。

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