吉川 英治

神州天馬侠

序

私は、元来、少年小説を書くのが好きである。大人の世界にあるような、きゅうくつな概念にとらわれないでいいからだ。

少年小説を書いている間は、自分もまったく、童心のむかしに返る、少年の気もちになりきッてしまう。――今のわたくしは、もう古い大人だが、この天馬侠を読み直し、校訂の筆を入れていると、そのあいだにも、少年の日が胸によみがえッてくる。

ああ少年の日。一生のうちの、尊い季節だ。この小説は、わたくしが少年へ書いた長編の最初のもので、また、いちばん長いものである。諸君の楽しい季節のために、この書が諸君の退屈な雨の日や、淋しい夜の友になりうればと思い、自分も好きなまま、つい、こんなに長く書いてしまったものである。

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