野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

銭形平次の見ている前で、人間が一人殺されたのです。それをどうすることも出来なかった平次、この時ばかりは、十手捕縄を返上して、番太の株でも買おうかと思った事件、詳しく話せば、こうでした。

「親分、今年の花見は町内に忌引や取込みがあって、ろくな工夫もなかったが、その代り川開きの晩は、涼み船を出して、大川を芸尽しで漕ぎ廻そうという寸法さ。お役目を抜きにして、その晩は一と肌脱いじゃあ貰えませんか」

浜田屋の隠居が口を切りました。集まったのは、町内でお祭騒ぎの好きなのが十五六人。その席へわざわざ平次を呼んだのは、大概のことは大目に見て貰い、話の都合では、何か一と役受けさせようという魂胆だったのです。

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