蜷川 新
私の歩んだ道
一 子供時代の教育と精神
私は、明治六年に生まれた。そうして七日ののちに、父をうしなった。私は、父親を知らない人間である。
私は、駿河の国(静岡県)の海岸の袖師で生まれた。興津の隣り村である。私は生まれてまもなく、母にいだかれて東京に移った。母の生家は、徳川時代から神田明神下にあった。母の実父、すなわち私の祖父は、播州(兵庫県)林田の旧藩主であったが、まだ生きていたのであった。母は、その生家の建部家をたよって、東京に出たのである。
私は、一家が無録移住をした駿河で生まれたのであり、生まれながらにして、逆境におかれた不運な一人間であった。