野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
紅葉はちょうど見ごろ、差迫った御用もない折を狙って、銭形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。
十手や捕縄を神田の家に残して、道中差一本に、着替えの袷が一枚、出来るだけ野暮な堅気に作った、一人旅の気楽さはまた格別でした。
疲れては乗り、屈託しては歩き、十二里の長丁場を楽々と征服して、藤沢へあと五六町というところまで来たのは、第一日の申刻(四時)過ぎ――。
野村 胡堂
一
紅葉はちょうど見ごろ、差迫った御用もない折を狙って、銭形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。
十手や捕縄を神田の家に残して、道中差一本に、着替えの袷が一枚、出来るだけ野暮な堅気に作った、一人旅の気楽さはまた格別でした。
疲れては乗り、屈託しては歩き、十二里の長丁場を楽々と征服して、藤沢へあと五六町というところまで来たのは、第一日の申刻(四時)過ぎ――。