野村 胡堂
随筆銭形平次
一
銭形平次の住居は――
神田明神下のケチな長屋、町名をはっきり申上げると、神田お台所町、もう少し詳しくいえば鰻の神田川の近所、後ろは共同井戸があって、ドブ板は少し腐って、路地には白犬が寝そべっている。
恋女房のお静は、両国の水茶屋の茶汲女をしたこともあるが、二十三になっても、娘気の失せない内気な羞かみやで、たった六畳二た間に入口が二畳、それにお勝手という狭い家だが、ピカピカに磨かれて、土竈から陽炎が立ちそう。
野村 胡堂
一
銭形平次の住居は――
神田明神下のケチな長屋、町名をはっきり申上げると、神田お台所町、もう少し詳しくいえば鰻の神田川の近所、後ろは共同井戸があって、ドブ板は少し腐って、路地には白犬が寝そべっている。
恋女房のお静は、両国の水茶屋の茶汲女をしたこともあるが、二十三になっても、娘気の失せない内気な羞かみやで、たった六畳二た間に入口が二畳、それにお勝手という狭い家だが、ピカピカに磨かれて、土竈から陽炎が立ちそう。