野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
ガラッ八の八五郎はぼんやり日本橋の上に立っておりました。
御用は大暇、懐中は空っぽ、十手を突っ張らかしてパイ一にあり付くほどの悪気はなく、このあいだ痛めたばかりの銭形の親分のところへ行って、少し借りるほどの胆も据わりません。
夕映えの空にくっきりと浮いた富士を眺めながら、歌にも俳諧にも縁の遠い思案をしていると、往来の人はジロジロ顔を見て通ります。どう面喰らっても、身投げと間違える気遣いはありませんが、その代り、夕景の忙しい往来の邪魔になることは請合いです。
野村 胡堂
一
ガラッ八の八五郎はぼんやり日本橋の上に立っておりました。
御用は大暇、懐中は空っぽ、十手を突っ張らかしてパイ一にあり付くほどの悪気はなく、このあいだ痛めたばかりの銭形の親分のところへ行って、少し借りるほどの胆も据わりません。
夕映えの空にくっきりと浮いた富士を眺めながら、歌にも俳諧にも縁の遠い思案をしていると、往来の人はジロジロ顔を見て通ります。どう面喰らっても、身投げと間違える気遣いはありませんが、その代り、夕景の忙しい往来の邪魔になることは請合いです。