永井 荷風

枯葉の記

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おのれにも飽きた姿や破芭蕉

 香以山人の句である。江戸の富豪細木香以が老に至つて家を失ひ木更津にかくれすんだ時の句である。辞世の作だとも言伝へられてゐる。

或日わたくしは台処の流しで一人米をとぎながら、ふと半あけてあつた窓の外を見た時、破垣の上に隣の庭の無花果が枯葉をつけた枝をさし伸してゐるのを見て、何といふきたならしい枯葉だらう。と思つた。枯葉の中にあんなきたならしいのがあるだらうかと思ふにつけて、ふと香以の句が胸に浮んだのである。しなびて散りもせぬ無花果の枯葉は全くきたならしい。

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