室生 犀星
舌を噛み切った女
京にのぼる供は二十人くらい、虫の垂衣で蔽うた馬上の女のすがたは、遠目にも朝涼の中で清艶を極めたものであった。袴野ノ麿を真中に十人の荒くれ男が峠路にかかる供ぞろいの一行を、しんとして展望していた。離れ山の洞窟のこの荒くれ男から、少し隔れた切株の上に腰をおろしたわかい女は、なまなましい脚を組んで、やはり山麓をゆく一行を徐に見まもっていた。
「野伏、そちが先に立て。」
あだ名を野伏ノ勝というわかい男は、もう馬を引き出していた。後は総勢であったが、袴野ノ麿はおれが行かなくともよかろうといった。すると切株の上の女はあたしも行くといい、立ち上った。
「すてはならぬ。」