室生 犀星
津の国人
あらたまの年の三年を待ちわびて
ただ今宵こそにひまくらすれ
津の国兎原の山下に小さい家を作って住んでいた彼に、やっと宮仕えする便りが訪ずれた。僅かの給与ではあったが、畑づくりでやっとその日を過している男には、それが終生ののぞみであっただけに、すぐにも都にのぼりたかった。けれども衣服万端の調度にこと欠いている彼に、どうして道中のいりようを作っていいかさえ、見当の立たないものがあった。自家の畑物をみんな食べてしまっている哀れな夫婦に、手の尽しようのない貧乏が永い間くい込んでいた。
月のいい夜であった。一束の白い菜をかかえた夫は、簀の子のうえに白い菜を置いたが、筒井はそれがどうして手にはいったかを尋ねるには、あまりに解り切ったことだった。