吉川 英治
上杉謙信
生ける験あり
この正月を迎えて、謙信は、ことし三十三とはなった。
まだ弱冠といっていい。それなのに、服色も装身のすべても、ひどく地味好みであった。長袖の羽織も山繭織の鶯茶の無地ですましている。大口に似た袴だけが何やら特殊な織物らしい。またいつも好んで頭巾をかぶり、新春の装い綺羅やかな群臣のなかにあって、にこにこと無口に衆を見まわしている。――どう見ても臨済の若僧がひとりそこに交ざっているようであった。
「どうです、他愛ないものではありませんか。これですから、わが部下というものは、可愛くてなりません」