吉川 英治
梅颸の杖
辰蔵の成人ぶりもお目にかけたい。二歳になる又二郎にもばば様と初の対面を遂げさせたい。妻の梨影も久しくお待ち申しあげている。
孫の愛で釣るように、手紙を出すごとにこう上京をすすめていた老母が、やっと来る気になって、三月三日に広島を立ち、途中、菅茶山の黄葉落陽村舎に立ちよって、十四日には便船で兵庫にあがるという叔父の春風からの通知をうけたので、山陽は、前日から大坂の後藤松蔭の宅に泊って、明る朝、摂津の御影まで迎えに出た。
『ほ、これは、どうして知れたのだろう』
茶店へ来ると、母を迎えに来た山陽は、却って、自分を迎える知己や朋友の群にとり巻かれた。