額田 六福
解説 趣味を通じての先生
松の樹が嫌いだった。
「君、あれは放蕩息子だよ。」
冗談によくそんな事を云われた。誰もが知っている通り、春夏秋冬と、松の木位手入れに手数のかかる木は尠い。自然物入もかさむ。全くやっかい至極な放蕩息子だ。
が、しかし、先生が松を愛されなかったのはそう云う手数がかかるとか、物入が嵩むとか云う理由ではなかった。手入は植木屋にやらせればいいのだし、費用だって先生の懐を脅かすほどの事はないし、又必要なら何百金でも平気で投出される人だったのだ。それについて詳しい説明をきいた事はなかったが、あのゴツゴツした、骨ばった木ぶりが嫌いであったらしい。とにかく庭にも盆栽にも松は一本もなかった。