伊藤 左千夫
水籠
表口の柱へズウンズシリと力強く物のさわった音がする。
この出水をよい事にして近所の若者どもが、毎日いたずら半分に往来で筏を漕ぐ。人の迷惑を顧みない無遠慮なやつどもが、また筏を店の柱へ突き当てたのじゃなと、こう思いながら窓の格子内に立った。もとより相手になる手合いではないが、少ししかりつけてやろうと考えたのである。
格子から予がのぞくとたんに、板塀に取り付けてある郵便受け箱にカサリという音がした。予は早くも郵便を配達して来たのじゃなと気づく。
この二十六日以来三日間というもの、すべての交通一切杜絶で、郵便はもちろん新聞さえ見られなかった際じゃから、郵便配達と気づいて予はすこぶるうれしい。この水の深いのに感心なことと思いつつ、予は猶予なくその郵便をとりに降りる。郵便箱へ手を入れながら何の気なしに外を見る。前に表の柱へ響きをさしたのは、郵便配達の舟が触れた音でありしことがわかった。