北原 白秋
木曾川
一
「ほら、あれがお城だよ」
私は振り返った。私の背後からは円い麦稈帽に金と黒とのリボンをひらひらさして、白茶の背広に濃い花色のネクタイを結んだ、やっと五歳と四ヶ月の幼年紳士がとても潔よく口をへの字に引き緊めて、しかもゆたりゆたりと歩いていた。地蔵眉の、眼が大きく、汗がじりじりとその両の頬に輝いている。
名鉄の電車を乗り捨てて、差しかかった白い白い大鉄橋――犬山橋――の鮮かな近代風景の裏のことである。
北原 白秋
一
「ほら、あれがお城だよ」
私は振り返った。私の背後からは円い麦稈帽に金と黒とのリボンをひらひらさして、白茶の背広に濃い花色のネクタイを結んだ、やっと五歳と四ヶ月の幼年紳士がとても潔よく口をへの字に引き緊めて、しかもゆたりゆたりと歩いていた。地蔵眉の、眼が大きく、汗がじりじりとその両の頬に輝いている。
名鉄の電車を乗り捨てて、差しかかった白い白い大鉄橋――犬山橋――の鮮かな近代風景の裏のことである。