松本 泰

秘められたる挿話

竹藪がざわざわ鳴っていた。崖に挟まれた赤土路を弟妹達が歩いている。跣足になっているのも、靴を穿いているのもいた。一同が広々とした畷へ出て、村の入口に架っている小さな橋を渡ろうとすると、突然物陰から、飛白のよれよれの衣物を着た味噌歯の少年が飛出して来て、一番背の高い自分に喰付こうとした。遮二無二に噛り付いてくる少年の前額に掌をかけて、力任せに押除けようと※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)いているうちに、浅田の夢は破れて、蚊帳を外した八畳の間にぽっかりと目を覚した。

夏の烈しい日光が、八時前にもう東側の雨戸を暑くしている。浅田が階下へ顔を洗いにゆくと、女中共が台所で、こそこそ話をしていた。

「何だね。何か変った事があったのかね」浅田は朝の忙しい時間に、台所を散らかしたまま、手を休めてお饒舌をしている女中を、咎めるようにいった。

「昨夜お隣りへ泥棒が入って、お婆さんが殺されたんでございますって」

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