安藤 盛

三両清兵衛と名馬朝月

三両のやせ馬

「馬がほしい、馬がほしい、武士が戦場で、功名するのはただ馬だ。馬ひとつにある。ああ馬がほしい」

川音清兵衛はねごとのように、馬がほしいといいつづけたが、身分は低く、年は若く、それに父の残した借金のために、ひどく貧乏だったので、馬を買うことは、思いもおよばなかった。清兵衛は、毛利輝元の重臣宍戸備前守の家来である。

かれはなぜそんなに馬をほしがったか。それというのは、豊臣秀吉がここ二、三年のうちに、朝鮮征伐を実行するらしかったので、もしそうなると、清兵衛もむろん毛利輝元について出陣せねばならぬ。そのとき、テクテク徒歩で戦場をかけめぐることは、武士たるものの名誉にかかわる、まことに不面目な話だからである。そこで、ひどい工面をして、やっと三両の金をこしらえた清兵衛は、いそいそと、領内の牧場へ馬を買いに出かけた。二、三日たって、かれがひいてかえったのは、まるで、生まれてから一度も物を食ったことがないのかと思うような、ひどいやせ馬だった。

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