梅崎 春生

桜島

七月初、坊津にいた。往昔、遣唐使が船出をしたところである。その小さな美しい港を見下す峠で、基地隊の基地通信に当っていた。私は、暗号員であった。毎日、崖を滑り降りて魚釣りに行ったり、山に楊梅を取りに行ったり、朝夕峠を通る坊津郵便局の女事務員と仲良くなったり、よそめにはのんびりと日を過した。電報は少なかった。日に一通か二通。無い時もあった。此のような生活をしながらも、目に見えぬ何物かが次第に輪を狭めて身体を緊めつけて来るのを、私は痛いほど感じ始めた。歯ぎしりするような気持で、私は連日遊び呆けた。月に一度は必ず、米軍の飛行機が鋭い音を響かせながら、峠の上を翔った。ふり仰ぐと、初夏の光を吸った翼のいろが、ナイフのように不気味に光った。

或る朝、一通の電報が来た。

海軍暗号書、「勇」を取り出して、私が翻訳した。

「村上兵曹桜島ニ転勤ニ付至急谷山本部ニ帰投サレ度」

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