山之口 貘
貧乏を売る
この間のことである。蛇皮線の大家と云われている人が、東京を引揚げて沖縄へ帰ることになり、その送別会が催されたが、場を変えて二次会になり、新橋のある泡盛屋にぼくはいた。ぼくは二年ばかりこの方、酒を遠慮しているのであるが、それでもまだずっとやめるというほどの気にはなれず、おっかなびっくりで、なめるようにしてそこにいたのである。そこへ、「この方が御面会です。」と云って、店の女の子が、名刺をよこしたのである。ある週刊誌のカメラマンである。障子を開けてのぞいてみると、若い人がカメラを持って立っていたが、すぐに近くに寄って来て云った。
「いま実はお宅へうかがったんですが。」と云うのである。すでに暗くもなっているし、遠いところを、ここまで追っかけて来たのでは、余程急ぎのことであろうと察しはついたのであるが、御用件はときくと、「実は今日〆切りで急いでいるんですけれど、写真をうつさせていただきたいんですが。」と云うのである。カメラマンだから、そうには違いないわけであるが、即答しかねていると、
「実はですね。奥さんと御いっしょのところをほしかったんですが、お留守だったんで先程奥さんだけ別にうつさせていただきました。それで仕方ありませんので別々に。」と云うのである。
「なんに使うんですか。」