江戸川 乱歩
妖怪博士
空いちめん、白い雲におおわれた、どんよりとむしあつい、春の日曜日の夕方のことでした。十二、三歳のかわいらしい小学生が、麻布の六本木に近い、さびしい屋敷町を、ただひとり、口笛を吹きながら歩いていました。
この少年は、相川泰二君といって、小学校の六年生なのですが、きょうは近くのお友だちのところへ遊びに行って、同じ麻布の笄町にあるおうちへ帰る途中なのです。
道の両がわは大きなやしきの塀がつづいていたり、神社の林があったりして、いつも人通りのすくない場所ですが、それが、きょうはどうしたことか、ことにさびしくて、長い町の向こうのはしまで、アスファルトの道路が、しろじろとつづいているばかりで、人の影も見えないのです。
空はくもっていますし、それにもう日暮れに近いので、泰二君は、なんだかみょうに心ぼそくなってきました。口笛を吹きつづけているのも、その心ぼそさをまぎらすためかもしれません。