野村 胡堂
悪魔の顔
物騒な話題
「そんな気味の悪いお話はお止しなさいませ、それより東京座のレヴィユーが大変面白いそうじゃ御座いませんか」
と話題の転換に骨を折って居るのは、主人石井馨之助氏の夫人濤子、若くて美しくて、客が好きで物惜みをしないというので、苟も此邸に出入する程の人達から、素晴らしい人気のある夫人でした。
が、その美しい夫人の魅力を以てしても、其晩の話題ばかりは、何うすることも出来なかったのです。贅沢な接待煙草の煙が濛々と立ちのぼる中に、不思議な邪な陶酔にひたって、男客達は「犯罪」の話に夢中になって居たのです。