野村 胡堂

九つの鍵

蜘蛛の糸

「今晩はまったくすばらしかったよ。愛ちゃんが、あんなにピアノがうまいとは夢にも思わなかったぜ。練習しているのを聴くと、ピアノというものは、うるさい楽器だからな」

「まア、お兄さん、それじゃ褒めているんだか、くさしているんだか、わからないじゃありませんか」

狩屋三郎と妹の愛子は、日比谷音楽堂の帰り、まだおさまらぬ興奮を追って、電車にも乗らずに、番町の住居まで、歩いて帰るところでした。

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