野村 胡堂
笑う悪魔
夜の編輯局
「勇、一杯つき合わないか、ガード下のお光っちゃんは、怨んで居たぞ、――近頃早坂さんは、何処か良い穴が出来たんじゃないかって――」
古参の外交記者で、十年も警視庁のクラブの主にされて居る虎井満十が、編輯助手の卓の上へ、横合から薄禿げた頭を突き出して斯んなことを言うのです。
「冗談じゃないよ、市内版がこれから始まるんだ、電報はやけに多いし、電話は引っ切り無しだが、整理部の新年会で部長以下皆んな出かけてしまったし、速記まで帰って了って手が付けられない、少し手伝えよ、虎井」