中谷 宇吉郎
黒い月の世界
地球創成の面影
遠い遠い昔のこと、もちろん人間などまだ地球上に現れなかった時代、おそらく数千万年もの大昔に、太平洋の深海の底に、大きい亀裂がはいった。
その亀裂は、現在のハワイ群島の東方に始まり、それからずっと西方に伸びて、ミッドウェイ島を通り、日本の南方近くにまで達した。そしてその亀裂に沿って、海底のずっと下にある熔岩が、ところどころから噴き出してきた。
これらは深海の底にできた火山であって、噴火の時は、もの凄い景観を呈したことであろう。ハワイの付近は、現在は約二万フィートの深海である。この二万フィートの海の底から、千数百度の熔岩が、恐ろしい勢いで噴き出してくる。大洋の水は、沸き立って、水蒸気はもうもうと天空を蔽い、熔岩のしぶきが真赤にその中を彩ったことであろう。まさに天地晦冥の大景観であったにちがいない。原子爆弾の水底爆発など、これと比べては、玩具のようなものである。