中谷 宇吉郎

アラスカ通信

アリューシャンを越えて

七月六日の午後、ノース・ウェスト機で羽田を立った時は、雨の中であった。しかし間もなく雲の上に出たので、気象状態はそう悪くなかった。

ときどき霧雨が窓を濡らし、灰色の雲がちぎれちぎれにとぶ。そして機は時々軽くゆれた。ところが千島の沖へかかった頃から、急に気流の状態がよくなった。三十六人乗りのあの大きい飛行機は、まるでぴたりと空中に静止したように、ちっとも動揺が感ぜられない。海上はすっかり濃霧にとざされて、霧頂は五千フィートくらい、その霧の上面は、水平な平面になっていて、積雲型の細かい凹凸が綺麗に並んでいた。

霧の状態は極めて安定なようであった。あとでフェアバンクスの気象台で、その日の天気図を見せて貰ったので分ったことであるが、弱いが複雑な構造の不連続線が、ちょうどこの頃にこの航空路を通り抜けて、太平洋側に出た後だった。それで気流の状態は上々であった。

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