中谷 宇吉郎
ツンドラへの旅
十月の初め、急に樺太〔サハリン〕へ行くことになった。
目的は、樺太の北、敷香〔ポロナイスク〕の町近いあるツンドラ地帯で、冬期間の凍上を防止したいという問題が起って、その予備調査をしようというのであった。一行は某省のA技師と、私と、私の方で凍上の実験を主としてやっているS君との三人であった。
十月の宗谷海峡は、もう海の色も冷く、浪がざわざわとざわめいていた。朝八時に稚内を立って、夕方の四時に大泊〔コルサコフ〕に着くまでの間、私は御免を蒙って、ベッドの中にもぐり込んでいた。そして今度の仕事について、ゆっくりと、シベリヤにおけるロシアの凍上対策のことなどを思いみていた。
幸い天候に比較的恵まれていたので、大体予定の時刻に大泊に着いた。船の上から見た大泊の町は、禿山の低い連山を背景にもった、荒れた色の港町であった。