林 芙美子
ふしぎな岩
夜になって、ふしぎな岩は、そっと動きはじめました。岩が動くってへんですね。
あわいお星さまをすかして、霧のような山風が、ひくい谷間から、ごう、ごう、ごうと吹きあげています。どこかの森の方で、フクロウが鳴いています。岩は、どっこいしょと起きあがって、せいいっぱいにのびをしました。
「ああ、いい気候になったな……遠いところへ旅行をしてみたいな。」
と、ふしぎな岩は、むくり、むくりと少しばかり歩きました。すると、谷間の方から、ざわざわとササヤブをふみ鳴らして岩山の方へ何かが登って来るようなようすです。ふしぎな岩は、「おや、何だろう?」と、じいっと耳をすましてまわりをながめました。