横光 利一
静安寺の碑文
静安寺の境内は名高い外人墓地である。大きなプラターヌの鬱蒼としている下に墓石が一面に並んでいる。綿のようなプラターヌの花が絶えず舞い落ちて来て、森閑と静ったあたりに動くものは、辷る大理石の墓石の面をようやく這いのぼった玉虫の、ばさりと落ちる音だけである。私は異国からはるばるとここへ来て死んだ人々の名を読み、それらの悲しい碑文を幾つも書き写したことがある。
Our life and our joy who only spoke and lived to fill our hearts with bless.
南京路を真直ぐに同文書院の方へ行った郊外近くにある寺だ。私は黄包車に乗って一人行ったのであるが、車夫を門前に待たせて墓石の文を写せるだけ書きとっていってみた。どの文章にも残った人の悲しみと追慕の情が、短い文のリズムと句意に溢れていて名文をなしている。
A precious one from us has gone. A voice we loved is stilled. A place is vacantly in our home which never can be filled. Faithful and true till death.