斎藤 茂吉

紙幣鶴

ある晩カフェに行くと、一隅の卓に倚ったひとりの娘が、墺太利の千円紙幣でしきりに鶴を折っている。ひとりの娘というても、僕は二度三度その娘と話したことがあった。僕の友と一しょに夕餐をしたこともあった。世の人々は、この娘の素性などをいろいろ穿鑿せぬ方が賢いとおもう。娘の前を通りしなに、僕はちょっと娘と会話をした。

「こんばんは。何している」

「こんばんは。どうです、旨いでしょう」

「なんだ千円札じゃないか。勿体ないことをするね」

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