中村 地平
悪夢
辺りをはばかる低い声で、山岸花子に呼ばれたやうな気がしたので、文科大学生の根上三吉は机の前から起ちあがり、電燈のコードをひつ張つて窓の外を覗いた。簡単服に足駄といふ花子の姿と、彼女の丈け位ゐある羽鶏頭が庭には照しだされた。いつもは玄関からあがつてくるのに、夜更けのせゐにしても裏木戸から廻つてくるのはおかしい、それに顔いろもわるいやうだが、電燈のせゐかな、などと不審げに、三吉はしばらく花子の顔を見つめてゐたが、あがるやうに合図した。
花子は部屋に入ると、改つたやうに座敷の隅に坐り、ベソをかいた子供のやうな顔をした。電燈のせいばかりでなく、やつれて醜い顔であつた。
「どうしたの。脚が痛むの」
訊ねても不機嫌に押し黙つたまま、頭を横にふつてゐるので、側へ行かふとすると