伊藤 野枝

書簡 大杉栄宛

宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館発信地 大阪市北区上福島

昨日はとうたうはがきを書く事も出来ませんで失礼して仕舞ひました。何卒あしからずおゆるし下さい。

停車場に和気(律次郎)さんが思ひがけなく見えてゐましたのにびつくりしました。あなたが電報を打つて下すつたのですつてね。午後から社に伺ふ約束をして直ぐこちらにまゐりました。叔父(代準介)は午後から旅行するのだと云つて、可なり混雑してゐる処でした。もう一と足で後れて仕舞ふ処でした。午後から社にゆきましたら、菊池氏は小説執筆中で休んでゐました。暫く和気さんとお話して心斎橋まで一緒に行きました。

叔父は三時にたつと云つてゐたのですけれども九時まで延ばしていろ/\お話をしました。何か云はうと思ひますけれども、何を云つても駄目なのでいやになつて仕舞ひました。叔父はアメリカに直ぐに行けと云ふのです。そして社会主義なんか止めて学者になれと云ふのです。とにかく二十日ばかり留守にするからそれ迄ゐろと云ひますから、ゐる事にはしましたが、叔母が何にも分らないくせに、のべつにぐず/\云ふのを黙つて聞いてゐるのがいやで仕方がありません。要するにあなたと関係をたてと云ふのですけれども、それをはつきり云はないのです。

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