伊藤 野枝
書簡 大杉栄宛
宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
今日は朝からちつとも仕事が出来ないので困つてゐましたの。昨日お手紙が来たので、今日はもう頂けないものと思つてあきらめて待たないでゐましたのに、来ましたので本当に嬉しうございました。本当にいろ/\御心配をかけて済みません。
女の世界もとうたうやられましたか。すると、もう私達は何も云ふ事が出来なくなつた訳でせうか。しかし、他の人に云へる事が何故私達が云つてはいけないのでせうね。
着物の心配までして下さつてありがとう。もうお天気の今日には暑くてセルも着られませんから、直ぐと単衣でゐられます。従妹から湯上りに着るのを二反送つてくれました。それを仕立てて着てゐればよろしうございますから。それと、羽織を、私は東京にあると思つてゐましたら、田舎に置いてあるさうですから、それを送つて貰ひます。いい単衣が一枚あればそれでいいのです。九州へ行けば、着るもの位はどうにかなりますから。単衣も出せばあるのですから、急がないでもいいのです。