伊藤 野枝

書簡 木村荘太宛

宛先  東京市麹町区平河町

発信地 東京市外上駒込染井三二九 辻方

御手紙拝見いたしました。そして私はあの御手紙の全面に溢れたあなたの力強い真実に強く接しました。同時に私は何とも形容の出来ない苦しい気持ちになりました。実は昨日お会ひしました時 私はもつとお話しなければならないいろいろなものを持つて居りました。それはあなたがあの手紙をお書きになる前に知つておいて頂かねばならない事なのでした。昨日あすこでお別れしまして後に 私はかへつたらすぐにそれ等の事を書いてあなたに御送りしやうと思つたので御座いました。然し昨夜は可なり労れてゐましたので 何にも書けませんでした。そして今朝御手紙を拝見して私は本当にどうしていゝか分らなくなりました。私はあなたに何とお詫びしたらよろしいので御座いませう。本当に私が気がよはかつた為めに申後れてしまひました。でも私は、自分を偽はるといふ事の出来ない者で御座います。そしてまた人を欺く事も嫌いで御座います。私は、おなじみの浅いあなたに対して申あげる事ではないので御座いますが あなたをまじめな方だと信じて御話いたし度いと存じます そして、それは、あなたに一層私といふものがはつきりと御わかりになるといふ事と信じます。

委しく御話すれば随分長いのですけれども くだらない事はぬきにして御話いたします。昨日御会ひしたあなたの眼にはどううつりましたか存じませんが 小さいうちからいろ/\な冷たい人の手から手にうつされて違つた土地の違つた風習と各々の人の違つた方針で教育された私は いろ/\な事から自我の強い子でした。そして無意識ながらも習俗に対する反抗の念は十二三才位から

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