伊藤 野枝
新刊紹介
伝説の時代 (タマス、ブルフインチ著[#改行]野上彌生子訳) 定価弐円 尚文堂発行
七百頁に近い大部なもので、全部四十一章に別れてゐて古代希臘羅馬の神話東方北方の伝説が残らず集まって[#「集まって」はママ]ゐる。
訳しぶりが如何にも自由で平易でちつともギコチないところがなくて読んで行くうちに、やさしいお母さんのお話でも聞いてゐるやうな気持になる暖か味を感ずる。活き/\した自由な拘束のない古代の神々や英雄ののんびりした、何処となくせまらぬ、動作がはつきり浮んで来る。そしてせゝこましい自分達のいまの生活と遠くかけはなれた、それ等の物語りがよんで行くものゝ心持を、だん/\にその純なところに引き込んで行く。
装幀も気のきいた、気もちのいゝものだ。中にはさんだ写真版にも、ロセツチのパンドーラなどのいゝのがあるが、それよりも、章の初めにはさんだ挿画がこの物語りの本の挿画にする為めに集められたかのやうに、しつくりと、あてはまつてゐて、すこしもいやな感がしない。すこしも目障りにならない。兎に角全体として、念の入つた、ちつともいゝかげんでなく何処までも注意のとゞいてゐる点がうれしい。