野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分、たまらねえ事があるんで、これから日本橋まで出かけますよ、いっしょに行って見ちゃ何うです」
巳の刻近い、真昼の日を浴びて、八五郎はお座敷を覗いて顎を撫でるのです。四月のある日、坐っていると、ツイ居睡りに誘われるような、美しい日和です。桜は散ったが苗売の声は響かず、この上もなく江戸はのんびりしておりました。
「頼むから日蔭にならないでおくれ、貧乏人の日なたぼっこだ、――ところでお前は日本橋まで何をしに行くんだ、気のきいた晒し物でも出たのかえ」
野村 胡堂
一
「親分、たまらねえ事があるんで、これから日本橋まで出かけますよ、いっしょに行って見ちゃ何うです」
巳の刻近い、真昼の日を浴びて、八五郎はお座敷を覗いて顎を撫でるのです。四月のある日、坐っていると、ツイ居睡りに誘われるような、美しい日和です。桜は散ったが苗売の声は響かず、この上もなく江戸はのんびりしておりました。
「頼むから日蔭にならないでおくれ、貧乏人の日なたぼっこだ、――ところでお前は日本橋まで何をしに行くんだ、気のきいた晒し物でも出たのかえ」