中谷 宇吉郎
金鱗湖
別府の裏側、由布山系の峠を越したところに、由布院という盆地がある。
ここは温泉もあり、最近だいぶ発展したが、以前はひどい山奥であった。もう四十年以上も昔の話であるが、中学時代に、ここを訪ねたときは、草鞋がけで、歩いて行ったものである。朝暗いうちに、別府を立ったが、向こうへ着いたときは、夕方すっかり暗くなっていた。
ここに金鱗湖という小さい池がある。その湖はんに一軒だけ木賃宿があって、そこで一泊した。障子をあけると、池の面に月がさし、銀色に光っていたのをおぼえている。
それよりも強く印象に残っているのは、大きい鯉が、無数にいたことである。五十センチ以上もある大きい鯉が、群れをなして泳いでいた。養魚場の池そっくりであった。