中谷 宇吉郎
写真と暮らした三十年
焔を撮る苦心
物理の実験に、写真が広く応用されることは、周知のとおりである。とくに私の研究の場合は、ほとんど写真を用いた研究であって、考えてみると、もう三十年間も、写真とともに暮していたことになる。
初めて研究と名のつくものに手をつけたのは、大学三年生の時であった。現在日立の中央研究所におられる湯本博士が、当時大学院の学生として、寺田寅彦先生の下で、水素の爆発の実験をしておられた。私が三年になって、寺田先生の指導で、卒業実験をすることになった時に、先生から、湯本さんのこの実験の手伝いをすることを命ぜられた。
この実験で、初めて写真を研究に使うことを覚えた。大正十三年のことであるから、今から数えて、三十三年昔の話である。それ以来、英独留学中の二年間を除いては、ずっと写真を使う研究をしていたので、文字どおりに「写真と暮した三十年」なのである。